特集記事

アンドロメダ銀河のハロー領域に存在するジャイアントストリームとその他3つのサブ構造の同時形成

山口 未沙(筑波大学大学院理工情報生命学術院数理物質科学研究群)

森 正夫(筑波大学,計算科学研究センター)

桐原 崇亘(北見工業大学)

三木 洋平(東京大学, 情報基盤センター)

小上 樹(総合研究大学院大学/国立天文台)

千葉 柾司(東北大学, 天文学教室)

小宮山 裕(法政大学, 理工学部, 創生科学科)

田中 幹人(法政大学, 理工学部, 創生科学科)


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現代の標準的構造形成モデルであるコールドダークマター(CDM)モデルは,矮小銀河が衝突・合体することでより大きな銀河へと階層的に進んだ事を示唆しています。その過程では,ホスト銀河のハローに,ステラ―ストリームと呼ばれる細長く伸びた恒星集団が発現することが理論的に示されており,近年実際にその存在が多く観測されてきています。

本研究では,M31(アンドロメダ銀河)で確認されているAndromeda Giant Southern Stream (AGSS),Eastern Extent (EE),North-Eastern Shell (NES),Western Shell (WS) という4つのサブ構造を同時に形成するようなM31と矮小銀河との銀河衝突現象(マイナー・マージャー)を調査しました。その結果,衝突した矮小銀河のダークマターハローのスケール半径と質量を,CDMモデルで予想される範囲内で変化させることで,これらのサブ構造の空間的特徴を再現できることを発見し,これらの統一的な形成モデルを構築することに成功しました。

具体的には,本研究で考慮した限られたパラメータ範囲においては,NESとWSの空間分布の進化は矮小銀河に付随するダークマターハローの重力ポテンシャルには依存せず,一方でポテンシャルが浅いほどEEの形成位置は北側に移動することが判明しました。更にシミュレーションの結果,その矮小銀河のダークマターハローの質量は$9 \times 10^{9} M_\odot$であり,約8500万年前にM31に衝突したことで,上記の4つのサブ構造が同時に形成されることが明らかになりました。

また,天球座標上ではEEとStream C (M31のサブ構造の一つ)の金属に乏しい部分であるStream Cpは重なって見えますが,視線方向ではEEはStream Cpよりも数10kpcほど我々に近い方に存在していることも示唆されました。更に,M31に対して正の視線速度を示すpositive streamがAGSSに沿って存在しており,これは既に観測されている負の視線速度を示すnegative streamと相補的なものであることを予測しています。

最後に,Stream B (M31のサブ構造の一つ),Stream Crとして知られているStream Cの金属に富む成分,そしてEEの3つのサブ構造は,AGSSに接続する巨大な恒星集団であるAndromeda Giant Southern Arc (AGSA) を構成していることを提案します。positive streamの存在とAGSAの全貌は,まだ観測的には確認されていませんが,今後の分光観測と理論研究の更なる進展によって,その存在が検証されることが期待されます。

図は,矮小銀河の恒星粒子の質量面密度分布の時間変化を天球座標上で示しています。矮小銀河のバルジや円盤が,M31(アンドロメダ銀河)との中心衝突後に潮汐破壊されていく様子が見てとれます。各パネルはシミュレーション開始からの経過時間を示しており,(a) 0.00 Gyr,(b) 0.20 Gyr,(c) 0.30 Gyr,(d) 0.40 Gyr,(e) 0.55 Gyr,(f) 0.70 Gyr,(g) 0.85 Gyr(現在に相当),(h) 1.05 Gyr に対応しています。白い楕円はM31の円盤を表しており,M31中心(楕円の長軸と単軸の交点)の南東側にある白線で囲まれた弧状の領域は,Preston et al.(2021)の恒星数マップに基づいて定義されたもので,シミュレートされたEEとの比較のために示されています。長方形の領域は,Conn et al.(2016)によって定義されたAGSSの観測領域を示しています。更に,M31中心の東側と西側に描かれた白い円は,それぞれ観測されたNorth-Eastern Shell (NES)及びWestern Shell (WS)の位置を示しています(Fardal et al. 2007)。パネル(a)の左下には,方位が表示されています。パネル(b)には,Eastern Branch(EB),Southern Branch(SB),North-Western Branch(NWB)が示されています。



参考文献・リンク

  1. The nature of the eastern extent in the outer halo of M31
  2. Major substructure in the M31 outer halo: distances and metallicities along the giant stellar stream
  3. Investigating the andromeda stream – iii. a young shell system in M31